例年、夏の終わりにアナウンスされるハーレーダビッドソン新年度モデルのラインナップ。この時期になると、ファンらは「いったいどんなニューモデルが登場するのか」と、期待に胸を膨らませ、その発表を心待ちにします。そして先日、2020年モデルが明らかになりました。早速、モーターサイクルジャーナリスト・青木 タカオさんに、注目モデルの見どころを解説していただきました。
漆黒のボディに、スピードスクリーンをまとった眼光鋭い眼差し。もしや、これは……!?
思わず、歓喜の声を上げてしまいました。『ローライダーS(FXLRS Low Rider® S)』がニューモデルとなって蘇ったのです。
2016年から17年にかけ、わずかな期間にだけ生産された「Sシリーズ」は「ローライダー(FXDL Low Rider)」など3機種にのみ設定された特別仕様車でした。洗練されたスタイルに、CVO™用のハイパフォーマンスエンジン『スクリーミンイーグル・ツインカム110B™(Screamin’ Eagle®, Twin Cam 110B™)』(=排気量1801cc)が搭載され、高い運動性能を発揮。発表と同時に大人気となって、新車のオーダー受付が瞬く間に終了となってしまったのも記憶に新しいところです。
実車を目の当たりにすると、それを上回るポテンシャルが伝わってくるではありませんか。
ダイナミックな旋回力を実現し、急な加速や減速でもお構いなしに安定した走りを見せる剛性の高いソフテイルフレームと、動きのいいモノサスペンションを組み合わせたシャシーに搭載されるVツインエンジンは、『ミルウォーキーエイト114(Milwaukee Eight® 114)』。1868ccもの排気量を持ち、最大トルクは155Nmを発揮。16〜17年式ローライダーSが積むスクリーミンイーグル・ツインカム110B™のマックストルク143Nmを上回り、加速力、鋭いスロットルレスポンス、力強い鼓動、そのパワーフィーリングを想像しただけで身震いしてしまいます。
心臓部だけでなく、足まわりの正常進化にも目を見張ります。
フロントサスペンションには、路面追従性とダンピング性能の高いインナーチューブ径43mmのシングルカートリッジ式倒立フォークをセット。ローライダーではフロントフォークをレイク角30度に設定し、穏やかで安定感のあるステアリングフィールとしていますが、ローライダーSではより浅い28度とし、機敏な動きにしていることがわかります。
4インチライザーにマウントする、トールバックスタイルを決定づけるゆったりと高いハンドルバーで操ることを考えれば、間違いなくハンドリングは軽快で、ワインディングではコーナーが待ち遠しいほどの高い旋回力で乗り手を夢中にさせるはず。ダブルディスク仕様としたフロントブレーキによって、エキサイティングな走りも冷静にコントロールでき、ハードなスポーツライディングにも余裕を持って応えてくれることでしょう。
もちろん、魅力は走りの性能だけではありません。艶やかでダークな鈍い輝きで足もとを引き締めているアルミ鋳造キャストホイールは、マットのダークブロンズ仕上げ。ブラックアウトした車体の中で、強い存在感を示しています。短くカットされたショートフェンダーとの相性も良く、見るからに身のこなしが軽そうです。
そしてなんと言っても、惹きつけられるのが精悍なフロントマスク。ローライダーSには欠かせぬアイコンとして先代から踏襲し、LEDヘッドライトとの調和を見せています。
5ガロン(容量18.9L)のフューエルタンクには、象徴的なハーレーダビッドソンのグラフィックが採用されています。もちろんメーターはタンクオンでデュアル装備。これは70年代に一世風靡した「FXS ローライダー(Low Rider)」から受け継いだ伝統であり、愛でることが許されるのはそのDNAを宿した“LOW RIDER”シリーズに乗れるオーナーだけなのです。多くのライダーから、きっと羨望の眼差しを受けるでしょう。
ブラックアウトへのこだわりは強く、さまざまな“黒”に見とれてしまうのは筆者だけでしょうか。パワートレインやプライマリカバー、タンクコンソールを「リンクルブラック」とし、ダービーカバー、インテーク、下部ロッカーカバーは「グロスブラック」に。
また、マフラーと排気シールドは「ジェットブラック」、フォーク、トリプルクランプ、ライザーとハンドルバー、リアフェンダーサポートは「マットフブラック」にカラーリングされ、LEDレイバックテールランプにはスモークレンズが採用されています。
この手の込んだ仕上がり、もしディーラーやイベントで実車を見ることがあれば、ぜひ見て確かめていただきたい。
車体色は今回見た「ビビッドブラック」の他に、バラクーダシルバーも設定。シルバーも早くみたいものですが、ニュー・ローライダーSでのライディングも楽しみでしかありません。近日中に、試乗レポートもお届けしたいと思います!
Text:モーターサイクルジャーナリスト 青木 タカオ
Photos:Masato Yokoyama