ハーレーダビッドソンは、クルーザーと呼ばれるゆったりとしたライディング・ポジションのモデルが多く、スポーツタイプやオフロードタイプに比べてシート高が非常に低いのが特徴です。とはいえ、パワフルなトルクを発揮するVツインエンジンの幅や車重も相まって、とくにビッグバイク初心者や小柄なライダーにとって「立ちゴケ」の不安は常につきまとうもの。
今回は、『フォーティーエイト(XL1200X Forty-Eight®)』を使って立ちゴケ予防のための足つきのコツと、不安なく取りまわしができるコツをお伝えしたいと思います!
フォーティーエイトはシート高が710mmと低く、ミッドコントロールの位置にあるステップ、中庸な位置にあるハンドルのポジションなど、とくにビッグツインのエントリー
として人気が高いモデルです。とはいえ、エンジンの幅が広いのと車重もあいまって、足をついたときにグラっとしがち。
身長161cmですが同じ身長の人の平均に比べて4cm股下が短い小林 ゆきが、これまでの経験から立ちゴケしないためのコツを詳しくお伝えします。
しっかり足を出したつもりなのに、ボテっ……!
バイクに乗り始めた頃は誰しもが経験する「立ちゴケ」。立ちゴケしやすいシチュエーションはいくつもありますが、ここではとくに頻発する停まる直後のシチュエーションでの注意点と、立ちゴケしにくい足のつき方をご紹介します。
自分が乗っているバイクの車重は何kgぐらいか、数字で知っていても、果たしてそれを自分の足で支えることができるのかどうか。
「立ちゴケ」という現象はグラっと来てから急激に発生しますから、いざバイクが傾いたときに自分では支えられると思っていても結局支えきれなかった……というときに起こります。ここでは、一度ゆっくりバイクを片側に傾けて、バイクの重さがどれくらいあるのか確認してみましょう。
バイクがどれくらいの重みがあるのか、少しずつ傾けて、自分の身体のどの筋肉を使って支えているのか確認してみましょう。
不安な方は、誰かにアシストしてもらいながらゆっくりバイクを傾けていきます。ここまでなら、自分の片足で支えきれるな、という角度や重みを確認することができると思います。そのとき、自分の身体のどの筋肉を使ってバイクを支えているのか確認することが重要です。ふくらはぎや太ももだけでなく、お尻や腰、背中、そしてハンドルを支える腕までさまざまな筋肉を使っていることがわかると思います。
人間は一度使う筋肉を意識させると、次からは無意識にその筋肉を上手に使うことができるようになるそうです。足腰のトレーニングにもなりますので、ときどき、停止状態から少しだけバイクを傾けて、どの筋肉を使ってバイクを支えているのか確認してみると良いでしょう。
初心者の頃は停まるとき、ついつい両足を出しがち。両足を出した方が、バイクがどちらに傾いても対処できるはず、という思い込みからしてしまうのですが、実はこれ、立ちゴケにつながりやすいダメな乗り方なのです。
ハーレーダビッドソンはじめ今のバイクのほとんどがテレスコピック式のフロントフォークを採用しています。このサスペンションは、フロントブレーキをかけるとフロントフォークが縮み、ライダーはブレーキによる慣性の法則とともに前に重心が移動します。
リアブレーキも使えば、ライダーの重心移動を減らすことができるのですが、立ちゴケが不安で両足を出しているとリアブレーキが使えませんから、姿勢の制御がしにくくなりグラついてしまうことがあります。このとき、立ちゴケが起きるのです。
両足を出そうとしてリアブレーキを使わないと、姿勢が前のめりになってバイクがグラついてしまい、立ちゴケにつながることがあります。
リアブレーキもしっかり併用することで、ふわっと静かに停まれるようになり、立ちゴケ防止になります。
停まるときはしっかりリアブレーキも使って、ふわっと静かに停まれるように心がけてみてください。走る技術も大切ですが、停まる技術を磨くと立ちゴケ予防になりますよ!
立ちゴケ防止のためには、足の出し方と同じくらいバイクをバランスさせて立てることも重要です。
小柄なライダーの場合、片足をしっかり着地させるために重心をバイクのセンターより左側にずらすテクニックも必要となってきます。座る位置をシートの真ん中より左側にずらすことで、より足つきが良くなるからです。
しっかり片足を着地させるには、停まる直前に座る位置をずらします。このとき、バイクもいっしょに傾かないようにすることがポイントです。
しっかり足をつくとともに、バイクをなるべく傾けずに立てるようにすることも立ちゴケ防止のポイントです。バイクの重さが足にかかると、滑りやすい路面で踏ん張りがきかなくなってしまいます。
バイクを直立状態にしておくには、意外と両腕の筋肉を使うことがわかると思います。バイクを直立状態にバランスさせると、指一本で支持できるほど。バランス感覚が良くなってくると、支える力も少なくて済むので疲れにくくなりますよ!
両足ではなく片足を着いた方がいい理由は、リアブレーキを使って車体とライダーの姿勢を安定させることができること、そしてよりしっかり足の裏全体で着地できるのでバイクを支えやすくなるからです。片足着地にも立ちゴケ防止の観点からコツがいくつかあります。
一つ目は、着地させる足を少しバイクから遠くに着くようにすることです。
片足で着地ということは、地面と接地しているのはフロントタイヤ+リアタイヤ+左足の3点ということになります。足の着地点がバイクに近いと接地点が直線的になり、左右にぐらぐらしやすくなってしまいます。バイクから少し離れた位置に足を出すことで、ぐらつきに対応しやすくなります。
足の位置がバイクに近い状態。これだとぐらついたときに踏ん張ることができません。
着地する位置や足の向きでも足つき防止になります。着地する片足をややバイクから離すことで、万が一バイクがぐらっと来たときにしっかり踏ん張ることができるようになります。
二つ目のポイントは、つま先をナナメ前に出すことです。
着地した足の中で一番踏ん張る部分は拇指球(親指の付け根)です。つま先をまっすぐ前にして着くと、バイクがぐらっと来たときに足の外側の側面は踏ん張りにくいので、立ちゴケにつながることもあります。つま先をナナメ前に出すようにして、しっかり拇指球で踏ん張れるようにすると、例えば強風で突然バイクがぐらっと来たときなどに対処することができますよ!
つま先がツンツンの状態だと、ぐらっときたときにバイクを支えることができません。座る位置をシートの中心からずらして、しっかり拇指球が着くようにするとよいでしょう。
つま先の向きにもコツがあります。まっすぐ前に出すよりも、ややナナメ前にすることで、より踏ん張りがきくようになります。
ツーリングに行った先で駐車場所に停めるときなど、どうしてもバイクから降りて取りまわしをしなければならないシチュエーションがあるかと思います。
ハーレーはシート高が低いモデルが多いので、両足が着く方は足を使って移動させることもできますが、両足が着かない方や非力な方は降りて押さなければいけませんよね。
このとき、ちょっとしたコツで楽に取りまわしできるようになりますので試してみてください。
重いバイクを取りまわしするときは、身体を低くかまえると力をかけやすくなります。
バイクを押して前進するときは、肩をハンドルのあたりまで下げて、足はできるだけ後ろへ。
バイクを下げるときは、腰を落としてハンドルを引くようにします。バイクの押し引きはバイクが動き始めるまでが重いのですが、身体を低くかまえることでテコの原理を使うことができます。一度バイクが動きはじめれば、直線なら軽々と動くはず。
前進させるときは全体重をハンドルにかけられるようにするため、肩をハンドルのあたりまで下げ、足は後ろに置くと押し出しやすくなります。
バックさせるときは、腰を落としてハンドルを引くようにします。
ハンドルを切って押し引きするときは二つの方法があります。
一つはバイクを直立させ押し引きする方法です。バイクをより軽く押すことができるので
平坦な場所でおすすめの方法です。ただし、右にハンドルを切る場合はバイクの重心点が移動するので、右側に倒れないように十分注意して取りまわしをしてください。
もう一つはタンクやシートに身体を当てて取りまわす方法です。
腕だけでなく腰からも力をかけることができるので、傾斜した場所などでも取りまわししやすい方法です。また、バイクがぐらっときたときに身体全体で支えることができるので、慣れないうちはこちらの方法がおすすめです。
タンクやシートに身体を当てながら取りまわしする方法は、腰からも力をかけられるのと、ぐらっときたときに対処しやすいので慣れないうちはこのやり方で。狭い場所や傾斜地の場合、より小さく取りまわせるこの方法をおすすめします。
誰もが経験するであろう「立ちゴケ」。教習所では倒れたバイクの起こし方は習いますが、倒さないようにするコツはなかなか教わる機会がありません。また、足つきに不安がない体格のライダーは、小柄な方の悩みを理解することが難しいかもしれません。
今回紹介した足つきと取りまわしのコツを、ぜひ皆さんのハーレーライフに役立ててみてください!!
撮影協力:道の駅 保田小学校
Text:小林 ゆき
Photos:濱上 英翔