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ついに完成した、世界で一台のアイアン1200。これ以上ないほど複雑なデザインの再現に挑んだ、完成までの工程をお見せする密着レポート!

2019.04.16

ハーレーダビッドソン ジャパンが展開する「SEEK for FREEDOM」。ファッション/音楽/アートの垣根を越えたアートディレクションで活躍するGraphersRockの岩屋 民穂氏が、スポーツスターファミリーの『アイアン1200(XL1200NS Iron 1200™)』をベースにオリジナルデザインをクリエイトし、かつてないハーレーの姿を表現するコラボレーション・プロジェクトだ。

ついに完成した、世界で一台のアイアン1200。これ以上ないほど複雑なデザインの再現に挑んだ、完成までの工程をお見せする密着レポート!

先ごろ、「SEEK for FREEDOM」特設サイトにて完成した真新しいアイアン1200の姿がお披露目されたところで、ここではGraphersRockが生み出したデザインと、バイク専門の「ハイ・パフォーマンス・ペイント・ファクトリー」を標榜するGlanz(グランツ)が実際に各パーツにグラフィックを落とし込んでいく工程をお届けする。

職人の手仕事仕上げに言葉を失う

2019年3月中旬の東京都八王子市。グランツに向かう岩屋 民穂氏の足取りは軽かった。なぜなら、ベースカラーの塗装が佳境に入ったという報せを受けたからだ。

「この蛍光イエロー、デザイン画とまったく同じではないのだけど、どうでしょう?」

グランツの塗装ブースに並ぶパーツ群。蛍光イエローで彩られた異様な光景にGraphersRock岩屋氏も息を呑む。

すでにペイント済みの小さなパーツを手に取り切り出したのは、グランツ代表取締役の高取 良昌氏だ。「同じではない」と言いながら、発言の中に一切の不安を漂わせず、静かに岩屋氏の返事を待っていた。

「まったく問題ないです。それ以上に、2Dのデザインが3Dになったリアルさのほうが勝って、個人的には大感動です」

「下地にクリーム色を入れてやってから蛍光イエローを塗ると、綺麗に色が出るんです」グランツ代表の高取氏の説明に聞き入る岩屋氏。

下塗を終えたフューエルタンクにいよいよ蛍光イエローが吹き付けられていく。経営者であり職人でもある代表の高取氏自らが塗装!

使われる機会の少なさから、極めて少量しか生産されていないアメリカ製の蛍光イエロー塗料。国内にわずかに残っていたものを本プロジェクトのために取り寄せたという。

後から考えれば、高取氏だけはその時点で「感動するのはまだ早い」と思っていたに違いない。そして実際に、同年3月末の2回目の工程取材で訪れたときには、前回を上回る衝撃的な感動にノックアウトされるのである。

「職人の手仕事による仕上げには、言葉を失いますね」

工房の壁に貼られた巨大なデカールシートを目の当たりにして、デザインした当人がしばし立ち尽くしてしまった。

本プロジェクトのデカールを手がけた倉本産業より届いた実寸大のデカール。万が一のときのために複数部印刷されたものが、グランツ事務所の壁一面に貼られていた。

フューエルタンクの上に描かれている細かな文字もしっかり再現。特殊技術による極薄仕上げであることから、塗装完了時にデカールが盛り上がることもないという。

岩屋氏が起こしたデザインで特徴的なのは、FREEDOMを始めとする大小様々なロゴやテキストが車体全域に描かれたところだ。ここまで文字を多用するバイクデザインは非常に珍しい。その理由について岩屋氏は、「今回のオファーは“新しくてカッコいい”だったので、GraphersRockらしさを全面に押し出したほうがフィットすると思った」からだという。

キックオフミーティングでは、GraphersRock岩屋氏がおこしたデザイン画を前に、グランツ、そして倉本産業の担当者も腕を組み、かなり難しい表情となった。

「これは相当難しい仕事になる。一方で、誰もやったことがない領域に踏み込んでいく楽しみもありました」と振り返る高取氏。

ただ、相手がバイクなので、⽂字多様のデザインの再現性に一抹の不安を覚えた。似た思いを抱えたのは、デカール製作を請け負った株式会社倉本産業の担当者も同様だったらしい。同社は国内バイクメーカーのデカールを手掛けるプロ中のプロだが、岩屋氏のデザイン画を見た際には思わず絶句、顔色を失したという。

そんな“新しくてカッコいい”を生み出す苦難を前にして、グランツは淡々と作業をこなした。とは言えその仕事ぶりは、素人が想像できる領域を超越していた。

二次元から三次元へデザインをおこす上で、一筋縄で行かないこともしばしば。その最たる例がこのサイドカバーのドット柄だ。

もっとも驚いたのはサイドカバーのドットだ。平面のデカールシート上では均一に並んでいるが、貼り付ける個所は曲面なので、シートのまま貼るとドットの並びに歪みが生じる。

倉本産業が手掛けたデカールがなぜうまく貼れなかったのか、その模様を説明してくれる高取 敬典専務(右)。

曲線を描いているサイドカバーに平面デザインのドット柄デカールをそのまま貼ると、歪な形になってしまう。そこで高取専務は、仰天の手法に出た。

そこで、塗装全般の工程プランを担当している高取 敬典専務(高取氏の実弟)はどうしたか? 何と、専用機械で100以上あるドットを切り分け、デザイン画通り均等の位置関係になるよう一つずつ手貼りしたというのである。それを聞いた岩屋氏と取材陣は、思わず子どものような歓声をあげてしまった。

真っ黒なデカールをドット柄にくり抜き、一つ一つピンセットで摘みながらサイドカバーに貼っていった。

実際の作業時の写真。マスキングテープをマス目状に貼ってドット柄の位置を正確に割り出し、そしてこのデザインが再現された。

「僕にはできない」と高取兄は苦笑。「そうする他に手立てがないだけ」と弟は冷静。そして岩屋氏は、秘密の洞窟で宝物を見つけたように目を輝かせてこう言った。

「凄いですよ、これは工芸品です!」

フューエルタンクに貼られるFREEDOMのステッカーを実際にあてがい、位置を確認する高取氏と岩屋氏。

空気抜きをしながら極薄デカールを丁寧に貼っていき、乾燥したらクリアーを吹いて一段階が終了。ここにグレーやミントがさらに加えられ、最後にもう一度クリアーを吹いて完成する何重もの構造になっているのだ。

クリアーを吹く前の状態。「このままでも十分なクオリティー」と岩屋氏も唸ったが、「本当に完成したときの喜びはさらに上ですよ」と高取氏は笑った。

形ある物をつくりたくなる岩屋氏の原点とは?

ここで改めて、「SEEK for FREEDOM」プロジェクトに参加した岩屋 民穂氏のプロフィールを紹介する。約20年前、専門学校を卒業後に出版社のデザイン部に就職。その後に勤めたデザイン事務所を含めたおよそ2年の経験を活かし、24歳でGraphersRockを創業。若くして独立したのは、「昔から組織に収まって強制されるのが苦手」だったから。

GraphersRockでは様々な仕事を手掛けてきたが、特に意欲が沸くのはCDジャケットやウェア、シューズなど、最終形態が手に取れる形あるものだ。それゆえバイクカルチャーとは無縁ながら、ハーレーダビッドソンとのコラボレーションには大いに惹かれたという。

なぜ形あるデザインに興味を抱くのか。その理由をたずねてみた。

「そもそも、僕の父親が質素と丁寧が人間の美徳と考える人なので、子どもが遊ぶ流行のオモチャをまったく与えてくれなかったんです。その代り、絵を描いたり工作すること、マンガを除く本を買うことには積極的でした。それが形ある物をつくりたくなるデザインスピリットの原点だと思います」

中でもグラフィックデザインに傾倒したのは、また別の理由があったそうだ。

「小学校の頃に開催された『国際科学技術博覧会』(つくば科学万博 / 1985年開催)に行き、21世紀のコンピューターテクノロジーに洗脳されました。中学生になるとパーソナルコンピューター(PC)が登場して、これは親にねだり続けて買ってもらいました。父が電機メーカーのエンジニアだったので、そこは理解があったようです。あの頃のPCは自分でプログラムを覚えないと動かせませんでしたが、コンピューターが教えてくれる世界は学校の勉強よりすぐに役立ったのですっかりハマりました。しかし、単なるコンピューター好きにならず、テクノロジーを活用したデザイナーになったのは、やはり少年時代の遊び方、というか親の育て方が影響しているんでしょうね」

平和と自由、フリーダムカルチャーの象徴

岩屋氏が高取氏にデザイン画を披露してから1ヶ月。東京の桜が満開になった4月初旬、GraphersRockとグランツのコラボレーションがついに結実した。都心のスタジオに運び込まれた「SEEK for FREEDOM」のコア。マットブラックのVツインエンジンの上に丹精込めて仕上げたパーツが装着された姿を見るのは、高取氏もこれが初めてだという。

2019年4月某日、待ち望んだ完成車がついに東京都内のスタジオに姿を現した。ハンドルもドラッグバーに変わり、より攻撃的なシルエットのアイアン1200へと生まれ変わった。

「…………………」。

塗装工程を確認するたび感動で言葉を失う岩屋氏の中で、完成車を直視したこのときの無言がもっとも長かったと思う。

完成車を前に感無量の岩屋氏、その気持ちを表現する言葉が見当たらずに言葉に詰まる一幕も。同じく喜びを隠せなかった高取氏も、また新しく大きな手応えを掴んだよう。

「イメージ以上ですね。想像をはるかに超えて、デザインデータにはなかった命が宿りました。感無量という他にありません」

ようやく感想を絞り出した岩屋氏を気遣うように、高取氏が3日前に起きた裏話を語り始めた。

「タンクのFREEDOMの文字。特に大きいので、デカールの土台の紙を剥がす時間がつかめなくてね。慌てて倉本産業に電話して、乾燥に3時間と教わって、ようやく貼れた感じ」。間に合わないかと思ったと笑って、岩屋氏も笑顔になった。

このアイアン1200の顔とも言えるFREEDOMの文字が描かれたフューエルタンク。間近で見るとその精密な仕上がりに舌を巻く。

「けれど、一度も無理だとはおっしゃらなかったですよね。それには救われました」と岩屋氏。その点に関してはこちらも聞きたかったところだ。

「初めてトライする部分もあったけれど、どうすればできるか、そのプロセスを突き詰めればできない仕事はないですよ。それ以上にこのプロジェクトで特徴的なのは、岩屋さんのデザインが従来のバイク業界にないものだったこと。だから新しい。街を走ったら必ず人目を引くでしょうね。そう、ひとつ聞きたかったのは……」。今度は高取氏からの質問だ。

「サイドカバーのニコちゃんマーク、左右で形が違うのはなぜ?」

「ちょっとだけ違う部分を発見した人にニヤッとしてほしくて。あのマークを使ったのは、平和と自由、フリーダムカルチャーの象徴だからです」

平面が立体となった以上の力をたたえたアイアン1200を眺める2人の会話はエンドレスに続いた。「SEEK for FREEDOM」の“新しくてカッコいい”表現は、今後多くの人に目に触れていく。その時々の場所で、必ず同じような光景が見られることだろう。

SEEK for FREEDOM アイアン1200 完成車の全容はこちら

完成したアイアン1200、その実物が見られる無料イベントを開催!

完成したアイアン1200のお披露目として、2019年4月24日(水)に東京・渋谷の THE CORNER にて、一夜限りのExhibitionイベントの開催が決定! バイク展示のほか、GraphersRockとゆかりのあるtofubeats、長谷川白紙によるパフォーマンス、そして監督・映像ディレクター・吉﨑響をゲストに招いたトークショーなどを予定している。さらに来場者には、GraphersRockがデザインしたTシャツ、ZINE、ステッカーがパッケージングされたノベルティ(先着)のプレゼントも。ぜひ足を運んで、世界に1台のアイアン1200を目撃してほしい。

EVENT INFORMATION

「SEEK for FREEDOM」
HARLEY-DAVIDSON® × GraphersRock - Exhibition –

開催日時:2019年4月24日(水)
会場:東京・渋谷 THE CORNER
OPEN / 18:30 START / 19:30
*Entrance Free

Performance:tofubeats(DJ set) / 長谷川白紙
Talk Show:GraphersRock / 吉﨑響 / 司会進行 野口尚子(PRINTGEEK)

SEEK for FREEDOM イベントの詳細はこちら

Glanz
東京都八王子市平岡町35-3
TEL:042-625-7511
営業時間: 9:00~18:00
定休日:土曜・日曜・祝日
http://cpt-takatori.com

Text:田村 十七男
Photos:安井 宏充、Masato Yokoyama

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