「ハーレーがあるじゃないか!」
すでにハーレーをお持ちの方にすれば、何をいまさらと思われるセリフかもしれない。しかし、人との接触を阻まれるという感染症に苛まれた2020年において、モーターサイクルが、いやハーレーダビッドソンが、もっとも安全な移動手段の一つになることを悟った方は決して少なくないだろう。
とは言え、僕らのハーレーは単なるトランスポーターではない。所有する満足感はもちろん、ここではないどこかへ走る喜びを与えてくれるかけがえのない存在だ。それゆえ、同じ場所に留まってばかりもいられない。また新しい旅に出なければ……。
というハーレー乗りらしい大志を胸に秘めつつ、秋が深まり始めた11月初旬に向かったのは、千葉県のほぼ中央に位置する「Sport & Do Resort リソルの森」。東京ドーム70個分という広大な敷地に、ユニークな宿泊施設や様々なスポーツアクティビティを備えた体験型リゾートだ。最大の興味は、2020年春のリニューアルオープンで登場したグランピング。「森の中のステイ」を謳う華やかなキャンプを心ゆくまで楽しむことにした。
この旅で共に森へ向かったのは、2020年モデルの『ストリートグライドスペシャル (FLHXS Street Glide®︎ Special)』
大型フェアリングから両サイドのサドルバッグまでパフォーマンスオレンジ一色に染め抜かれた、目にも鮮やかな1台だ。エンジンは、ツーリングモデル最大の排気量1868㏄を誇る『ミルウォーキーエイト114 (Milwaukee-Eight® 114)』。この強大なパワートレーンに電子デバイスを駆使した『リフレックスディフェンシブライダーシステム(RDRS)』を組み合わせ、安全かつ快適なライディングを可能にしている。
その走りに最大級の賛辞を贈りたいのは、やはり高速道路だ。路面上の多少の起伏など軽くいなしながら前へと進んでいく滑らかさは、決して大げさではなく快晴無風の大海原を優雅に渡るクルーザーのようだった。どこまでも走っていけそうな安定感から来る乗り心地の良さは、ハーレーのツーリングモデルならではだ。
リソルの森までのルートに触れておく。都内中心部からは東関東自動車道または京葉道路を利用し、千葉東金道路大宮ICを出て千葉外房有料道路の板倉ICへ。そこからリソルの森までは約5分。横浜・川崎方面からは東京アクアラインで木更津JCTを経由し圏央道の茂原・長柄スマートICへ。そこからもリソルの森までは約5分と便がいい。
今回は、出発地点からの最短距離となる東関東自動車道~京葉道路を選んだ。ただしこのルートでは海が遠く、せっかくの秋晴れにもったいないと感じ、東関東自動車道湾岸習志野ICを降りて寄り道した。千葉市美浜区の海側、海浜大通りの花見川河口に架かる美浜大橋は、東京湾が望めるささやかなツーリングスポットだ。道路も片側3車線と広く、想像力の翼を拡げればLAあたりを走っているような気分になれる、かもしれない。
千葉市美浜区の美浜大橋。東京湾に秋晴れのまぶしい太陽が反射していた。
もう一つ付加情報を。千葉外房有料道路はETCの利用が不可。料金所で現金を支払う昔ながらの方式だが、気が利く先頭車のライダーが「後ろの分まで」と通行料をまとめて手渡す懐かしいスタイルの再現ができると思うのだが、どうだろう。
最後のICを出て目的地に向かう道は、まさしく里山の中。都心から2時間もかからない場所でこれほどのどかな景色を見られることにいたく感心する。そんな穏やかな気分に浸った先に、リソルの森はある。
案内されたのは、テラスハウスやログハウス、テントキャビンが設けられた「グランヴォー スパ ヴィレッジ」。一言でくくれば常設のアウトドア的宿泊施設が整ったエリアだが、森に囲まれた土地の緩やかな勾配を巧みに利用した構成は、各施設の清潔さと相まって落ち着いた心持ちにさせてくれる。
「グランヴォー スパ ヴィレッジ」内にあるグランピングエリア。
このグランヴォー スパ ヴィレッジは、有名リゾートのランドスケープも担当しているオンサイト計画設計事務所が手掛けたという。オープンは2020年4月。しかしコロナ禍によって実質7月からの稼働になったそうだ。それでも当初から注目されたのは、アウトドア自体が感染症対策に適しているだけでなく、グランヴォー スパ ヴィレッジの整然としつつも自然と近い設計の妙にも理由があるのではないだろうか。
さて、期待のグランピング。テントもまたオンサイトによる他にないデザインだそうだ。しかしこのテント、外側こそソフトな素材を用いたそれらしい形状だが、実質的な構造は設営・撤収を繰り返す一般的なものとはまったく異なっている。基礎はコンクリート。床に木を敷き詰めた天井の高い室内は、2台のベッドが楽に収まるほどの広さを有している。シュラフを利用すれば最大4名まで利用可能だという。しかもエアコン完備。各種アメニティも充実。この快適さこそがグランピングの神髄だろうと唸ってしまった。
テントに反映される木々が美しく、森にいるということを実感させてくれる。
驚くのは早かった。宿泊者に振る舞われるディナー用BBQもまた豪華だった。地元中心の食材でそろえられた肉・魚介にスープ・デザートetc… これらをすべて手ぶらで楽しめ、あらゆる雑事から解放されるのもまた、グラマラスなキャンプの愉悦だ。
様々なアクティビティが設けられているリソルの森。このエリアで用意されているアウトドア的アクティビティの一つが薪割り体験だ。
「薪割り?」などと侮ってはいけない。大きな斧を安全に振り下ろすには、まず正しいスタイルを教わらなければならない。なおかつ目の前に置かれる薪は木の幹そのままの太さで、一体いつ割れるのかと心配になるほどだ。
ところが、スタッフの指導と応援に励まされながら斧を振り続けると、それは突然訪れる。しばし言葉を失うくらい見事な真っ二つ。この爽快さは、薪割りのオリジナルな快感かもしれない。
グランヴォー スパ ヴィレッジでさらに紹介しておくべきは、露天風呂も備わる天然温泉スパ「紅葉乃湯」だ。炭酸水素ナトリウムを豊富に含む黒褐色の弱アルカリ性鉱泉の内風呂ともども、利用は宿泊客に限られるので混雑に煩わされることがない。しかもこの「紅葉乃湯」は2020年グッドデザイン賞を受賞。温泉好きもさることながら、デザインや建築に興味がある人にも心温まる施設になるだろう。
グランヴォースパヴィレッジを出たところで訪れたいのは、旧スイス大使館を移築した「和食処 翠州亭」。旧スイス大使館を移築した昭和初期の入り母屋総檜作りの日本建築は、国の登録有形文化財に指定。これまた森の中に建つ風情は一見の価値がある。
元々は渋谷区広尾にあったというスイス大使館の建物を千葉に移設させたという。
その他リソルの森には、専用ハーネスを着用し樹から樹へと空中移動するアクティビティのターザニアや、体育館や温水プール等のスポーツ施設、さらには近隣に真名カントリークラブもあり、大勢の家族や仲間で楽しめる魅力を持ち合わせている。言うまでもなくこれほどのボリュームを持った場所は、一度や二度でそのすべてを堪能できないだろう。
だからこそ僕らは旅に出る。ここではないどこかを知る喜びは、一度や二度で満たされるものではないことをハーレーに教わってきたからだ。留まることも時には肝要。だが、知恵を絞って新たな暮らし方に挑むのも、変化を避けられない人生には必要だ。リソルの森で眠り、目覚め、遊ぶ。そんな非日常性も、この時代はテレワークやワーケーションといった方法で他所とつながりながら体験できることを僕らは知った。
それでも日々に息苦しさを覚えたら、木漏れ日が降り注ぐ森まで連れて行ってくれる頼もしい存在を思い出そう。
僕らにはハーレーがあるじゃないか!
Text:田村 十七男
Photos:安井 宏充
取材協力:Sport & Do Resort リソルの森
〒297-0201 千葉県長生郡長柄町上野521-4
TEL: 0475-35-3333(9:00~17:00)