Harley-Davidson

Freedom Interview

2020.11.06

パイクスピークのレジェンド! 世界的レーシングドライバー “モンスター田嶋” が語るEVの重要性と魅力

2020.11.06

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バッテリーとモーターを動力源にして走る電動車両、つまりEV(=Electric Vehicle)というものに、あなたはどんなイメージをお持ちだろうか? クルマの世界においては、地球温暖化の原因のひとつとなる二酸化炭素を排出しないという存在意義や、燃料代より電気代の方が安上がりという経済性、そして何よりモーター駆動の乗り物ならではの力強さや静けさといった特有の乗り味に魅了され、積極的にEVを選ぶ人も増えつつある状況だ。EVユーザーは間違いなく増えている。

一方でモーターサイクルの方はどうかといえば、まだ市販のEV車両が少ないこともあって、大きな動き、傾向といったものはなかなか見えてきていない。ひとついえることがあるとするなら、「電動の二輪があるのは知ってるけど自分には関係ない」と感じていたり、「音や振動が魅力なのにそれがなくなっちゃうのはちょっと……」と軽く否定的な気分でいたりする人も少なからず存在している、ということぐらいだろうか。

そんな中、2021年の春、ハーレーダビッドソン初の電動スポーツバイク、『ライブワイヤー (LiveWire®️)』がついに日本で販売されることとなった。日本仕様のライブワイヤーの詳細については徐々に明らかになっていくはずだが、それに先駆けて、EVという乗り物の世界をシリーズで紹介したい。

来春販売予定のライブワイヤー 、ハーレーダビッドソン史上初の電動スポーツバイク

1回目に御登場いただくのは、誰もが認めざるを得ないEVのエキスパート、電気自動車普及協会の代表理事を務める田嶋 伸博さん。

数多くの功績を持つ田嶋伸博さん、モンスター田嶋、電気自動車普及協会代表理事も努める

田嶋さんは、過去にアジア・パシフィック・ラリー選手権で5回もシリーズチャンピオンを獲得し、スズキの事実上のワークスドライバーとして世界ラリー選手権にも出場。また世界一過酷な競技といわれる北米のパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムでは、2006年から2011年までの6連覇を含む7回の総合優勝を獲得し、2011年には世界記録もマーク。とても並べ切れないほどの輝かしい経歴を持つ、世界的なレーシングドライバーだ。現在では御自身の会社でEVの設計・開発・製造なども行っている。

プロのドライバーだからこそ肌で感じる地球環境の変化

「私は1970年代からラリーという競技をやってきて、全てのエンジン形式、全ての過給システム、全ての燃料と、幸せなことに内燃機関(ガソリンエンジン/ディーゼルエンジン等)に関しては全て体験することができました。良い時代に生まれたんですね。それらを極限まで突き詰めて競技を戦ってきました。最終的には2000ps。内燃機関をやり尽くしたようなところがあったんです。

ラリーの世界選手権では、いろいろな国を回って毎年ほぼ同じコースで戦うのですが、そうなると大切なのは前年のデータ。例えば北欧では、雪や氷のデータがとても重要です。どこのルートにどれくらい雪が積もってどれくらい路面が凍っているのか、それが勝敗を分けるからです。

ところがあるとき、ふと気づいたんですよ。年によってコンディションは変わるものですけど、去年は路面に雪があった、一昨年は凍っていた、だけど今年はちょっと濡れてるだけ。解りやすくいうと、そんなふうに地球の温暖化が進んでいることを、はっきり実感したんです。現地の人達にとって、それは日々の生活の中のリアルな問題。北欧では電気自動車の普及が目覚ましいんですけど、それは“このままだとまずいぞ”と、死活問題であることを、彼らが肌で知っているからなんですよ。

アジア・パシフィック・ラリー選手権で5回もシリーズチャンピオンを獲得したモンスター田嶋

それからまずは手始めに、風力とか太陽光といった自然のエネルギーから電気を作り、生活のために役立て、クルマを走らせる、といったことを研究する部署を、2009年に自分の会社の中に作りました。それがEVとの本格的な関わりのスタート、といえるかも知れませんね」

自ら打ち立てた世界記録を、自身で開発したEVで破る

──2012年からは自社製のEVマシンでパイクスピーク・ヒルクライムに参戦し、ガソリンエンジンのマシンで御自身が打ち立てた世界記録のタイムを見事に更新されています。モータースポーツ活動にEVを採り入れたのは、なぜですか?

「内燃機関ではこれ以上は速くならないというところまでやって2011年に世界記録を作ったわけですが、その直後に、ベネッセの創業者、福武 總一郎さんと改めてお話する機会がありました。彼も温暖化を止めないと地球の将来が大変なことになると考えて、電気自動車の普及に関して様々な活動をしていました。もっと多くの人に環境について理解して欲しいと思った彼は僕にこう言ったんです。“自分で作ったガソリン車で世界記録を打ち立てた人が、次は自分の作った電気自動車でその記録を破る。それが最も説得力のある最高のアピールだ”と。

モンスター田嶋、パイクスピークも殿堂入り、EVクラスで優勝

それで2012年に急遽、電気自動車のレーシングカーを作って、パイクスピークに挑戦したんです。初めてのEVでの参戦だったこともあって、決勝では結露の問題が出て途中で停まっちゃったんですけど、最速記録そのものは無事に予選で破ることができました。それがEVで競技をやることになったあらましです。きっかけは教育界の大御所の言葉だったんですよ(笑)」

2013年パイクスピークヒルクライムで田嶋伸博さんが運転したEV車のE-Runner2013年パイクスピークヒルクライム決勝の際に乗った車両「E-Runner」。

EV車で優勝、2013年2013年パイクスピークヒルクライムも見事優勝を飾った。

一瞬にして最大の力が路面に伝わる、というEVの魅力

──田嶋さんは現在もレーシングカーをはじめとするEVの開発をなさっていますから、内燃機関のクルマとの決定的な違いを深く広く御存知だと思います。その代表的な部分はどんなものでしょう?

「内燃機関の場合は、アクセルを踏んで空気と燃料をエンジンに取り込んで、混合気を爆発させて回転運動に変えて、それをまた変換して……と、動力を路面に伝えるまでに時間がかかるんですね。私達のような競技をやってる人間にとっては、レスポンスが大切なんです。EVだと、アクセルを踏んで電気が通った瞬間にモーターが反応する。一瞬にして最大の力を路面に伝えることもできるんですよ。そこはEVのひとつの大きな魅力です。

しかも、モーターは電子制御との相性がものすごくいいんですよ。どんなクルマでも、気持ちよく走れるとか、心地よく乗っていられるとか、それがとても重要でしょう? 人間の感性にいかに合わせていくか。そこが内燃機関のクルマよりも圧倒的にやりやすい。いろいろなやり方で、いろいろなことができる。多様性があるんです。

2016年バイクスピーククライム、Tajima Rimac E-Runner Concept_One、EV車2016年パイクスピーククライムの車両「Tajima Rimac E-Runner Concept_One」。

たとえば私が開発したEVでは、タイヤひとつに対してモーターがひとつついていて、極端なこといえば、左側を前に行かせて右側を後ろに行かせて、その場でクルッと回転することだってできる。ハンドルを切らなくても曲がっていける。

パフォーマンスに関することだけじゃありません。今、電気自動車普及協会や私が一生懸命やっているのは、小さい二人乗りのクルマ。意外でしょう?超小型モビリティといって、環境省や国交省と一緒にやっているんです。

どういうことかというと、人口が少なくなってガソリンスタンドもなくなっちゃったような地域に住んでいらっしゃる高齢者の方が、安全に気持ちよく移動できる手段の確保なんです。

小さな二人乗りの車の超小型モビリティ、過疎地に住む高齢者のためのおすすめEV車、低コストで乗れる田嶋氏が開発に力を入れる超小型モビリティ。

高齢化社会になって免許返納なんて話も出てくるけど、日常生活を送るためには返納できない人だって多いんです。当たり前に暮らすためには、買うにも維持するにもコストの高いクルマを買って、給油のために遠くのガソリンスタンドまで行かなきゃならない。けれどそういう方は、本当はスピードなんて出なくてもいいし、そんなに遠くまで行けなくてもいいし、車体が大きい必要もない。安く買えて、維持費も安く上がって、1日の用事をすませて帰って来られればいい、という方がほとんどなんですよ。そういう方達のためのEVです。

自宅の100ボルトのコンセントで充電できて、帰ってから充電しておけば翌日もまた使える。安価で小さなEVは最適な移動手段だと思うんですよ。安全のために、何かあった場合には離れたところにいる家族のところでアラームが鳴るとか、異常を感知した場合にはゆっくり自動的にスピードを落とすとか、そういうアシスト装置があれば、なおいいですよね。

すごい加速をしてすごいスピードで走れるクルマも作れるし、トコトコと安心して気持ちよく移動できる小さくて低コストなクルマも作れる。EVでは、使う人の必要性や感性に寄り添ったクルマを作りやすいんです」

EVの静けさを心地良さとして伝えることができる

──内燃機関のクルマにはない、乗り手にとっての楽しさや喜びもありますよね。

「そうですね。やはり、モーター特有の瞬間的にパワーやトルクを引き出せる性格。ここにも大きな可能性があるわけです。

自動車には、タイヤの限界を超えて加速することはできない、という絶対に崩せない壁がある。ところがモーターのクルマだと制御の自由度が高いから、タイヤがグリップを失わないギリギリのところで最大限の加速力をキープすることだってできる。内燃機関のクルマにはトランスミッションがあって操作する必要もあるけど、EVでは必ずしもそれを必要としない。つまりプロのドライバーでも免許取り立ての人でも、ほとんど同じように強力な加速を引き出すことだってできる。今や電子制御の世界というのはものすごく進んでいて、EVはそれと親和性が高い。クルマにとって重要な味付けというものも、内燃機関よりもはるかにやりやすいんですよ。

もうひとつは静けさですね。内燃機関がないので、静けさを心地好いものとして伝えることができる。例えば山道を走ってるときに、これまでは聞こえなかった鳥の声とか風が草木を撫でるときの音を聴くことだってできるでしょう。

EV車の開発に力を入れるモンスター田嶋

ただし、あまりにも静かなので、それまでは気がつかなかったいろいろな音が耳に届くようにもなります。例えばタイヤのロードノイズ。聞こえてくるのが雑音になるのか、エンジンとは別の種類の気持ちいいサウンドになるのか。

EVではここにもいろいろなやり方があるんですけどね。これまでのハーレーはVツインの音とか振動とか、鼓動のようなものが大きな魅力のひとつなわけでしょう。それがEVを作ってどんな新しい魅力をユーザーに提供していくのか、とても興味深いですよ」

和食が美味しければ洋食だって美味しい。だからシェフの腕の見せどころ

──モーターサイクルのEVというのは、田嶋さんとしては「あり」ですか?

「もちろんですよ。ドーンと加速するパワーボートみたいなものも面白いし、一方では波の音を楽しめるヨットだって心地好いでしょう? EVはひとつのユニットでそのどっちも味わえる乗り物なんです。さらに、繰り返しになりますけど、制御次第でいろいろな性格の乗り物が作れる。

例えば前輪と後輪にひとつずつモーターを持たせて協調制御すれば、雪の上でこれまでの二輪車とは段違いに安定して走れるモーターサイクルだってできる。技術的には、もうそういうことが可能な領域に達しています。EVのハーレーは内燃機関のものと併売されるのでしょうけど、内燃機関の乗り物とEVの関係性は、和食が美味しければ洋食だって美味しい。そういうものだと思うんです。どっちも美味しい。だからシェフの腕の見せどころ、なんですよ。

ハーレーダビッドソンの電動スポーツバイク、ライブワイヤー

EVはものすごく奥が深くて、やればやるほど可能性が広がる乗り物。ハーレーに関しても、そこをデザイナーやエンジニアたちがどう考えてどう料理したのか、本当に楽しみですね」

──最後に、こちらを御覧になってる読者の皆さんにメッセージをいただけませんか?

「まず、地球温暖化は本当に進んでいるということを、もう一度しっかりと心に留めていただきたいと思います。近年、大きな気象変動が起きています。豪雨による川の氾濫だって、かなり頻繁に起こってます。おかしいですよね? 年々、異常気象の度合いが大きくなっている。そう感じたら、後世のために、自分のお子さんやお孫さんのために、自分は何ができるのか。冷静に考えてみて欲しいんです。自ずといろいろなものが見えてくると思うんですよ。

環境問題に取り組むためのEV車、これからの未来のために電気自動車普及協会の代表理事を努める

EVを選ぶことも、皆さん自身ができることのひとつだと私は考えています。利便性だとか楽しさも大きいですが、それは次の段階の話。まずは社会的な必要性を理解していただくことが大切。それから乗ってみていただいて、EVのよさを体感したら、気持ちの中でいろいろなものが変わるはず。

ただ何となく乗って、速いねとか凄いねとか、もちろんそれが悪いとはいいませんけど、それだけで終わってしまうのはもったいない。EVという乗り物が自分だけじゃなく社会にも様々なメリットをもたらしてくれるということを、多くの人に知っていただきたいですね」

Text:嶋田 智之
Photos:安井 宏充
電気自動車普及協会 (APEV)
ハーレーダビッドソン

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