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100年の歴史を誇るハーレーダビッドソンの大学、HDUをレポート。その原点と日本における教育システムとは

2017.04.19

ハーレーダビッドソンが運営するHARLEY-DAVIDSON UNIVERSITY。ハーレーオーナーの夢を叶えるサービステクニシャンの育成プロセスと、日本における教育システムの真髄に迫ります。

1917年、軍人による軍需ハーレーの整備を目的にしたスクールを設立。それを源流とするHARLEY-DAVIDSON UNIVERSITY(以下、HDU)は、オーナーの夢を叶えるハーレーダビッドソンの理念を形にしたものであると言っても過言ではない。東京都昭島市にあるHDUを訪れ、講習の内容はもちろん、この教育施設に関わる人々の想いを訊ねた。

HDUの使命とは?

ディーラー全体で最善のサービスを提供するために

ハーレーダビッドソンが大学を運営していることをご存じだろうか。名称はHARLEY-DAVIDSON UNIVERSITY。ちなみにUNIVERSITYは総合大学と訳され、一般に単科大学または一学部を指すCOLLEGEより規模が大きいものとされている。入学を許されるのは、ハーレーダビッドソンの正規販売店に勤務するスタッフのみ。もしあなたがその扉を叩きたいなら、まずはディーラーに入社しなければならない。
ではなぜUNIVERSITYを名乗るのか?気の早いハーレーオーナーならこう思うだろう。二輪メーカーであればメカニック – ハーレーでは「サービステクニシャン」と呼ぶ人材の育成が主になるはずだから、本来はCOLLEGEがふさわしいのではないかと。もちろんサービステクニシャン向けの充実した設備と詳細なプログラムは用意されている。それともう一つ。ハーレーの純正パーツやウェア等を販売するスタッフに向けた接客サービスの方法や、ディーラーを運営するためのセールススキルを学ぶコースがHDUにはある。つまり各ディーラー全体で最善のサービスを提供するための、文字通り総合的なカリキュラムを提供するのがHDUの使命なのだ。

生誕100年、HDUの原点

驚くべきは、この教育機関が誕生して今年でちょうど100年になることだ。きっかけは軍への納入だった。1910年代当時、アメリカの二輪メーカーは出荷の半分を軍事重要に充てていた。そこでハーレーは、軍に所属する人間に整備と修理を学んでもらう必要があると考え、1917年にクォーターマスターズ・スクール(Quartermasters School)を発足。当初は9人のテキサス出身の伍長に3週間に渡る修理方法を講習したという記録が残っている。これがHDUの原点だ。現在は、北中南米・欧州・アジア・オーストラリアにその拠点を広げ、グローバルで統一されたプログラムを展開している。
日本でも1928年という早い段階でサービススクールが開講された。現在のHDUは、東京都昭島市のメガディーラー、ハーレーダビッドソン 昭和の森のすぐ脇に建っている。

この場所では2008年4月にHDJファミリー総合トレーニングセンターという名称でスタートし、2016年2月にHDUとしてリニューアルオープンを果たした。その内部で行われている講習をお届けしたい。

「READ THE FACTORY MANUAL. わからないときは純正マニュアルを読め!」

技術と誇りを持ったサービスのために

日本のHDU校舎、その1階にあるのは8基のリフトが備わった広大なサービストレーニングルームだ。ここで実車に触れながら、ハーレーのメカニズムや整備・修理の方法を学ぶ。用意されるプログラムは多種多彩。いずれも受講者の経験や希望に即しており、技能レベルに応じて段階的な5タイトル(スタッフ→テクニシャン→アドバンステクニシャン→エキスパート→マスター)が設けられている。取材のタイミングでは異なるディーラーから2名の受講者が集い、ビークル&シャシーズという講義を受けていた。

リードテクニカルトレーナー、マイク・オニール氏

折良くこの日は、シンガポールから来たというマイク・オニール氏が現場に居合わせた。彼の役職は、アジアパシフィック地域を統括するリードテクニカルトレーナー。グローバル基準の講習が行われているかを確認する、トレーナーのためのトレーナーである。そのオニール氏に、HDUのサービストレーニングの意義を訊ねた。
「ハーレーダビッドソンの製品が持つ能力を最大限発揮させるには、サービステクニシャンの存在が不可欠です。その彼らにしても常に学ぶ意識が必要です。ここでは、サービステクニシャンに対して技術的な講習を行うと同時に、誇りを持ったサービスができる向上心も身につけてもらいます。そしてまたオーナーにとっては、正確な方法を学んだHDU経験者によって安心できるハーレーライフを送ることができるでしょう」
もう一問。HDUにやって来るサービステクニシャンにメッセージを求めたら、ニヤッと笑いながら太い腕に彫られたタトゥを掲げた。「READ THE FACTORY MANUAL. わからないときは純正マニュアルを読め!」

サービステクニシャンが居てこその安心と安全

2008年発足のHDJファミリー総合トレーニングセンター時代から講師を務める日本唯一のシニアテクニカルトレーナー、根本竜成さんにも話を聞くことができた。
「外資系二輪メーカーの中で、ここまで本格的に独立した教育施設を持つところは他にない。率直に言って、それはHDUの自慢です。ただ、現実的にサービステクニシャンの立場は縁の下です。たとえ最高ランクのマスターになっても目立つ仕事ではありません。しかし、自分たちがいてこそユーザーが安心してハーレーに乗れるということに高い意識を持ってもらいたい。我々はそのために、できるだけ楽しく学べる環境を整えようと努めています」

シニアテクニカルトレーナー根本竜成さん

トレーナーたちに話を聞いている間、2名の受講者はテレビモニターによる講習を終え、それぞれ実習に移っていた。静岡県のハーレーダビッドソン タオカ沼津に勤める古澤昌実さんは、同店の先輩からHDUで学んで来たことを聞かされ、触発されたという。

「先輩が受けたものとは異なるプログラムに興味があって受講しました。会社では目の前の仕事が優先されるので、この機会にしっかり勉強して細かい部分を確認したいです」

ハーレーダビッドソン バルコム杉並の佐藤洸興さんは入社半年のサービステクニシャンだ。「まだ全てが勉強ですが、ここではマニュアルを見て自分で挑むという実戦形式なのですごく楽しいです」。そう言いながらも手を止めない姿が実に頼もしかった。

世界中のハーレーダビッドソンディーラーで共通していること

ハーレーのある暮らし、そしてお客様の夢を叶える

HDUの2階はユニークな間取りだ。中央廊下の左側で最初に目に飛び込んでくるのは、ハーレーの純正パーツやウェア類が多数ディスプレイされた、ショップを模したスペース。ここでは、的確な接客をロールプレイング形式で体験するプログラムが行われるという。その奥には26人が同時研修できるパソコンルームが控えている。

廊下の右側は、Touringという表記の講習室が並んでいる。その1番目の部屋は講義の最中だった。そっと覗かせてもらうと、大きなモニターにはイタリアの経済学者であるヴィルフレド・パレートが発見したというパレートの法則が記されていた。1階とは全く趣が違う空気に少し戸惑いを覚えた。
受講していたのは、ハーレーダビッドソン バルコム広島のアフターセールス・マネジャー、中村保幸さん。HDUには過去にも訪れた経験があり、今回は在庫管理プログラムを選んだと言う。
「普段は感覚的にやっている仕事を体系的に学び直したかったんです。ここにはディーラーを経営する上で知りたい様々なフォーマットがあるので、すぐに業務に生かせるメリットを感じています。それから講師の方の話し方も、スタッフに業務伝達するときの参考になります」
それを聞いたトレーナーの田島素生さんはこんな話をしてくれた。
「グローバルで統一されたフレームワークがありますが、具体的な接客は地域性を考慮しなければなりません。例えばアメリカなら初めて会ったお客様でも握手を交わせますが、ここ日本では難しい。ではどういう第一印象を与えたらいいかについてもビデオやロールプレイングで検証します。しかし世界中のハーレーディーラーで共通しているのは、バイクではなくハーレーを売るということ。つまり、ハーレーのある暮らしというお客様の夢を叶えることです。それにはまず、ディーラーのスタッフ全員がハーレーに誇りを持って働かなければなりません。ユーザーの輪が広がって繋がりを維持していく。ハーレーのビジネスモデルは非常に特殊なのです」

左:H-Dバルコム広島の中村保幸さん 右:HDUトレーナーの田島素生さん

最初にも記した通り、HDUを受講できるのはハーレーダビッドソンの正規販売店に勤務するプロフェッショナルに限られる。それ故オーナーには直接関係ない施設ではあるが、プロのための教育機関を実に100年前から整えてきたハーレーダビッドソンの理念は、ハーレーを愛する全ての者に響くのではないだろうか。HDUに関わる人々に会い、その確かな手応えを感じた。

Text:田村十七男
Photos:横山マサト

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